ヘリエキスポ2000に見る

ヘリコプターメーカー各社の戦略と動向

 

 

 今年の国際ヘリコプター協会(HAI)年次大会「ヘリエキスポ2000」は去る1月24〜26日の3日間、ラスベガスで開催された。会場となったコンベンション・センターには459社が展示ブースを並べ、60機以上のヘリコプターを運びこんで、14,456人が入場した。いずれも過去最大の規模である。

 ここでは、これらの展示と各社の報道発表、ならびに企業トップのインタビュー談話を中心に、世界のヘリコプター・メーカーの動向を展望する。

 

多角的な国際協力を進めるアグスタ社

 イタリア・アグスタ社は今、ヘリコプター・メーカーの中では最も元気がよく、意欲的な活動を展開そている。英ウェストランド社との共同開発になるEH-101大型3発ヘリコプターの量産が軌道に乗り、A109小型双発ヘリコプターの売れゆきも順調で、1999年は64機の注文を受けた。前の年よりも20機多い。 S

 開発努力をつづけてきたA119コアラ単発タービン機も昨年12月30日に型式証明を取得、この5月から量産機の引渡しがはじまる。8人乗りの同機はP&WC PT6B-37ターボシャフト・エンジン(1,002shp)を装備、単発ながら大きな出力をもって260km/hの高速飛行が可能。価格は140万ドルである。

 アグスタ社最大の話題はAB139(15席)の開発計画。PT6C-67Aエンジン(1,679shp)2基を搭載、巡航296km/hの高速で800kmを飛ぶことができる。昨年秋ロンドンで開催された「ヘリテック」ショーでは英ブリストウ・ヘリコプター社から初の2機を受注したが、ラスベガスではオーストラリアから救急機、ベネズエラからビジネス機としての注文を受けた。

 同機は目下ベル社との共同開発が進んでいるが、原型機はこの夏にもミラノ近郊のアグスタ・テスト・センターで初飛行の予定。近く軍用機としても大量注文を受ける見こみとか。おそらくは今年7月のファーンボロ航空ショーで詳細が明らかになるであろう。

 ほかにもアグスタ社はNH90軍用輸送機の開発に参加しているが、その経営戦略はヘリコプターにとどまらない。欧州メーカーの中ではいち早くティルトローターに手を着け、ベル社のBA609の開発に参加、独自のティルトローター計画「エリカ」の計画も打ち出した。

 アメディオ・キャポラレッティ社長は語る。「わが社は長年にわたって大メーカーとの協力関係を築き上げてきた。その共同作業の中から新しい技術を学び、アグスタ独自の特徴を創り出してきた。それがいま立派に実って、英ウェストランド社、米ベル社などとの間で新たな価値を生み出しつつある」と。

 アグスタ社の1999年収入は8億ドル以上。その58%が輸出であった。受注残高は昨年末で25億ドルを超えた。1999年中のヘリコプター引渡し数は64機。うち19機が軍用機、45機が民間機である。

 

モデル427と407がそろったベル社

 ラスベガスでのベル社の目玉は新しいモデル427軽双発タービン機であった。ひと月前の99年12月にカナダ運輸省の型式証明を取り、FAAの証明もHAI大会の当日、量産1号機をペトロリアム・ヘリコプター社(PHI)に引渡す直前に交付された。

 キャビンは客席が4〜6席、巡航速度240km/hで640kmを飛ぶ。HAI大会の期間中、427はコンベンション・センター前のレストランを借り切って、その屋上駐車場から試乗会をした。筆者も乗せてもらったが、離陸するとすぐ眼下にラスベガスの巨大ホテル群が立ち並ぶ街路が伸び、その向こうに赤茶けた砂漠と岩山が広がって雄大な遊覧飛行になる。427の飛行も振動と騒音が少なく、快適な乗り心地であった。

 基本価格は220万ドル。最近までの受注数は世界47社から80機を超えたが、これは最初の3年分の生産に相当する。427が北米市場で期待するところは、社用ビジネス機の分野である。最近は多くの企業でビジネス航空の価値が認められるようになり、新たにビジネス機を購入するところが増えた。従来からビジネス機を使っていた企業も、好景気を背景に新機種に切り替えつつある。しかも最近は都心部の交通渋滞がひどくなり、そのためヘリコプターを使う企業が増えている。

 427に加えて、ベル社では407単発機の売れ行きも好調で、引渡し数は昨年末までの4年足らずの間に401機に達した。HAI大会の期間中にもロッキーマウンテン・ヘリコプター社から5機を受注したが、いずれもシングル・パイロットの計器飛行装備をして、救急用に使う予定。

 なおベル社の1999年中の新製機引渡し数は262機。うち民間機は150機、軍用機は112機で、3機のV-22ティルトローターが含まれる。特に多いのはモデル407の62機だが、その前身となったジェットレンジャーやロングレンジャーも合わせて40機が引渡され、根強い人気を保っている。

 こうしたヘリコプターに加えて、ベル社の将来戦略はティルトローターに重点が置かれている。テリー・スティンソン社長は「ティルトローターこそは航空界の大きな技術革新である。われわれは、これを現実のものにした。人びとのロータークラフトに対する見方も変わりつつある。特にこれからティルトローターが実用になり、公共交通機関として使われるようになれば、都市の道路渋滞を避けて、多くの人びとの社会生活にかかわりを持ち、広く受け入れられるようになるだろう」と語っている。

 

最新技術の製品をそろえるユーロコプター社

 ユーロコプター社は独・仏両国の合併勢力だが、今や米国勢をしのぐ最大のヘリコプター・メーカーになった。1999年の売上げ高は20億ドルに達し、4年連続で1位の座を保った。そのうえ99年6月には懸案のタイガー攻撃機が独・仏政府から80機ずつ、合わせて160機の注文を受け、量産態勢に入った。

 EC155は、このHAI大会で初めてアメリカに登場し、VIP専用のビジネス機として2機の注文が発表された。これまでのAS365N3ドーファンにくらべてキャビン幅が広がり、全長が延びて、最大12人の乗客が乗れるようになり、シコルスキーS-76C+に挑戦しようという機種である。

 EC145は名前だけが話題になったが、実物はもちろん模型も写真も公表されなかった。おそらくはEC155とEC135の販売を先行させ、その中間にあるEC145の営業活動はもっと先に取っておきたかったのであろう。とはいえ同機はすでに昨99年6月12日に初飛行し、フランス民間警備隊から40機の大量注文を受けており、2001年末頃から引渡しに入る計画が進んでいる。

 さらに後日談だが、去る3月22日、東京ビッグサイトで開催された国際航空宇宙展では川崎重工業が共同開発のパートナーとしてEC145――すなわちBK117C2について、正式にプレス発表をした。同機は日本でも去る3月15日に初飛行している。写真や模型を見ると機首のプロフィールにEC135の線が採り入れられて洗練され、胴体幅が広くなって客席数が最大11席に増え、ローターブレードが新しくなった。エンジンはアリエル2E2(770shp)2基を装備して、出力が強化されている。

 EC135は昨年6月のパリ航空ショーで量産100号機が引渡された。最近までの受注数は200機に近い。同じくEC120Bコリブリは引渡し開始から2年で総受注数200機にせまりつつある。

 こうして今や、ユーロコプター社の製品はEC120からEC135、EC145、EC155とそろった。ほかにスーパーピューマ大型機や軍用機があるが、副社長のジークフリート・ゾボタ博士は「われわれは、これら最新技術を採り入れた品ぞろえによってヘリコプターのあらゆる需要に応え、マーケット・リーダーとしての地位を保持してゆきたい」と語っている。

 

再生から1年のMDヘリコプター社

 MDヘリコプター社は昔ヒューズ・ヘリコプター社として発足、資本の移動によってマクダネル・ダグラス・ヘリコプター社に変わり、やがて親会社と共にボーイング社に買収された。それがベル社に吸収されることになったが、独禁法に反するというので昨年2月オランダのRDMグループに買い取られたものである。

 それから1年が経過した。この間のヘリコプター生産数は37機、受注数は50機であった。一時は「死に体」となったMDヘリコプターだが、今や完全に息を吹き返したかに見える。今年は64機の生産が進んでおり、2001年は90機の計画である。

 ヘンク・シェーケンCEOは10か月が経過した時点で、「この間の販売と製造は予期した通りに順調であった。これからどうなるかと思って半信半疑の面持ちで見ていた人びとにも安心感と信頼感を与えたはずだ」と語っている。「わが社は大メーカーをめざしているわけではない。しかし製品の質とカスタマーサポートで最良のメーカーになることをめざしている。売れるかどうかは価格とカスタマーサポートが決め手になる」と。

 MDヘリコプター社の得意とする市場は、これまでの実績から警察機と救急機だが、当面そのあたりが同社の営業戦略になるもようである。その戦略に沿って、MDエクスプローラーは当初のMD900がMD902に改良されたが、いま再び改良機の試験飛行がおこなわれている。P&W207Eエンジンを装備して飛行性能を1割増とし、カテゴリーAの安全性向上が目的である。

 

 

S-92の成否にかけるシコルスキー社

 過去8年をかけて自主開発をつづけてきたSー92大型機(旅客19席)が、ようやく初の注文を獲得した。カナダのバンクーバーで定期便を運航中のヘリジェット航空から1機、同じくカナダの海底油田の開発支援に当たっているクーガーヘリコプター社から5機である。

 S-92原型機は1号機が地上試験に供され、2号機が1988年12月23日に初飛行、3号機もすでに飛んでおり、最近までの飛行時間は2〜3号機を合わせて160時間になった。4号機と5号機も今年中に飛び、2001年末には型式証明を取得、2002年4月から引渡しに入る計画。1機あたりの基本価格は1,300万ドルである。

 これを購入したヘリジェットは2002年からバンクーバーを拠点とする定期旅客輸送に使い、クーガーヘリコプター社はニューファウンドランド沖の海底油田に投入する。どちらも定期的な人員輸送をおこなうもので、本質的な違いはない。

 S-92はそのため氷結防止装置をそなえ、気象条件の悪いときでも洋上長距離の飛行が安全確実にできるよう設計されている。飛行性能は乗客19人と乗員2人が乗り、287km/hの巡航速度で、所定の予備燃料を残して740kmを飛ぶことができる。

 ディーン・ボーグマン社長は「Sー92は最新の技術を採り入れた輸送用ヘリコプターである。定期旅客輸送の分野でSー92が導入されるならば、今のSー76に加えて信頼性はいっそう高まるであろう」と語っている。

 けれども、S-92はこの両社の注文だけで成功というわけにはいかない。取りあえず初の注文が出て、シコルスキー社を初めとする関係者の間には安堵感が広がったが、今後もっと多くの注文を取らなければならない。せっかく新しい航空機が誕生しようとしているのだから、途中で栄養不良や発育不全に陥らぬよう、立派に育ってもらいたいものである。

 S-92に加えて、シコルスキー社ではS-76Dの開発構想が立てられている。同機は現用S-76C+のアリエル2S1エンジンをそのまま使用しながら、主ローター・システムに防氷装置を取りつけ、ブレードの揚力を高め、騒音を減らして、直接運航費を下げるというもの。実際の開発着手は未定だが、技術力、開発力にすぐれたシコルスキー社としては、このS-76Dに信頼性の向上、運航費の削減、使い勝手の向上を織り込むとしている。

 

世界最大のメーカーとなったロビンソン社

 世界のいわゆる5大ヘリコプター・メーカーはアグスタ、ベル、ボーイング、ユーロコプター、シコルスキーの5社である。しかし昨年278機を生産したロビンソン・ヘリコプター社は、機数では前年につづいて世界最大となった。内訳はR44(4席)が150機、R22(2席)が128機である。

 これで現在、世界中で飛んでいるロビンソン機は約3,800機。主な用途はR22が操縦訓練、R44が自家用だが、最近は警察や農薬散布にも使われている。

 同社はまた今年のHAI大会で操縦系統に油圧機構を組みこんだR44を公開した。これは昨年9月に完成した選択(オプショナル)装備品だが、その後のR44購入者はほとんど油圧装備を選ぶので、これがR44の標準装備になるのは時間の問題と見られる。また今回は、緊急用のポップオン・フロートを取りつけたR44も展示された。

 フランク・ロビンソン社長は「わが社はピストン・ヘリコプターの分野では8割のシェアを占め、世界最強である。長期目標はより良い機材を、より安く、より多く供給することだ。小型ピストン・ヘリコプターは今後ますます自家用機やビジネス機として使われるようになり、オフィスや工場から空港へ向かって自由に飛べる日がくるだろう」と語っている。

 たしかに、高級なタービン・ヘリコプターが進歩する一方で、安くて手軽なピストン機の人気も根強いものがある。

 1999年のロビンソン社の売上高は前年比10%増。2000年は1月末の時点で、R44が同年中の引渡し分だけで119機の注文を受けていた。残り11か月間で前年を上回る注文になることは確かである。

 

シュワイザーとエンストローム

 今年のヘリエキスポでは、以上のような大メーカーばかりでなく、シュワイザー社とエンストローム社も新しいモデルを発表した。

 シュワイザー社の発表したモデル333は(トリプル3)は小型単発タービン機で、現用330SPの派生型。ロールスロイス・アリソン250-C20Wエンジンを装備して出力が強化され、ローターブレードも新しくなって飛行性能が向上した。巡航速度は194km/h以上、航続3.5時間。ホバリング能力は地面効果内で標高2,400mまで上がった。また総重量が3割増となり、搭載量も増えている。

 HAI大会では2機の注文を受け、4月から引渡しに入った。ポール・シュワイザー社長は「小型タービン・ヘリコプターとして、さまざまな改良をほどこしたうえに、運航費が最も安いので他の大メーカーの小型タービン機をおびやかし、市場に食い込んでゆけるだろう」と語った。

 基本価格は595,000ドル。なお、シュワイザー社の99年中の引渡し数は、モデル300C小型ピストン機も合わせて40機であった。

 エンストローム社の新製品は480B小型単発タービン・ヘリコプター。これまでのモデル480の強化型で、エンジンはアリソン250-C20Wと変わらないが、トランスミッション系統を強化して利用可能出力を上げたもの。離陸出力は269shpから6%増の306shpとなり、最大離陸重量も68kg増の1,360kgになった。この春にはFAAの型式証明を取得する見こみである。

 

 こうしてヘリコプターの世界は、メーカー各社のたゆまぬ開発努力によって、常に新機種が生まれ、育ち、拡大してゆきつつある。早くも来年の、21世紀最初のヘリエキスポが楽しみである。

(西川渉、『別冊航空情報ヘリコプターのすべて』、2000年7月刊掲載)

 

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