ヘリコプター、飛行機のDMBパイロットスクール


 

21世紀に向かうヘリコプター新技術

 

 

 

 新世紀の到来を間近にひかえて、ヘリコプターはこれからどのような発展をするのだろうか。それにはどのような技術が必要なのか。あるいは、ヘリコプターの技術者や研究者は何をめざして開発努力をつづけているのか。ここでは、そうした新しい技術上の課題を探ってゆくことにしたい。

これまでの技術革新

 将来の行く末を考える前に、過去50年間の来し方を簡単に振り返ってみよう。

 ヘリコプタが実用化されたのは1940年代なかばであった。シコルスキーR-4が2人乗りの軍用ヘリコプターとして米陸軍に採用されたのが1943年。つづいて翌年、改良型のR-6が採用されたが、同機はエンジン出力が強化され、飛行性能が良くなっていた。これらの軍用機は第2次大戦末期、欧州、フィリピン、中国大陸などの戦場に送りこまれ、連絡、偵察、患者搬送などに使われた。終戦までの生産数は合わせて355機だったという。

 戦後は1946年、ベル47が民間証明を取得、ヘリコプターが初めて商用機として使えるようになった。

 それから約10年後、1950年代なかばにはヘリコプターにもタービン・エンジンが搭載されるようになった。軽量、小型、強力なターボシャフトはヘリコプターの飛行能力を一挙に向上させ、速度や高度などの性能範囲を拡大し、軽快な飛行が可能になると共に、搭載量も増大した。

 1960年代にはエレクトロニクス技術が発達して、増安定装置が開発され、ヘリコプターの安定性が良くなった。ヘリコプターはもともと動安定に欠けるところがあるが、電子的な安定装置によってパイロットが操縦桿から手を離しても姿勢保持ができるようになった。

 1970年代にはプラスティック革命が起こる。従来の金属材料に代わって複合材が使われるようになり、グラスファイバーでつくった主ローターブレードは安全性を飛躍的に高めた。耐用時間も一挙に1万時間、もしくは無限に延びた。それまでの金属製ブレードは2,000時間前後で廃棄処分をしなければならなかったので、経済的にも改善されることとなった。

 1980年代に入ると、コンピューターが発達し、航法装置と操縦系統をコンピューターで仲介することにより、自動操縦が可能になった。その航法手段は地上の施設から発射される電波に頼っていたが、1990年代には人工衛星からの信号が受けられるようになった。カーナビで知られるGPSで、地上の航法電波が届かない山中、海上、砂漠など、どこへ行っても精度の高い位置情報が得られるようになった。

 以上の要点を整理すると下表のようになる。

 

ヘリコプター半世紀の技術革新

年  代

技術革新

具体的事項

1940年代

近代ヘリコプターの誕生

ヘリコプターの実用化

1950年代

タービン革命

ピストン・エンジンからターボシャフトへ

1960年代

エレクトニクス革命

増安定装置の取りつけ

1970年代

プラスティック革命

金属に代わる複合材の採用

1980年代

コンピューター革命

自動操縦の実用化

1990年代

GPS革命

衛星航法の導入

 

 

今後に残された課題

 そこで、今後に残された課題は何だろうか。第1に安全性の向上、第2に騒音の軽減、第3にコストの低減であろう。安全性の向上といっても、今のヘリコプターが危険というわけではない。悪天候でも安全に飛べるような、誰でも操縦できるような、いま一段の安全が必要ということである。

 たとえば現在、ヘリコプターの事故率は10万飛行時間あたり10〜20件という頻度で発生している。これは薬剤散布や山岳地の資材輸送など、飛行環境が良くないからといわれる。けれども、それは言い訳に過ぎない。危険な作業であるからこそ安全の確保が必要で、当面は事故率を一と桁下げることを目標に、10万時間あたりの事故を1〜2件にするための技術的進歩が必要であろう。

 さらにヘリコプターは騒音がやかましく、したがって都心に近い便利なところにヘリポートをつくることができない。これらの課題が解決されるならば、ヘリコプターの利便性は一挙に上がって使用頻度が増し、機数も増加して、1機当たりの生産コストが下がり、購入価格や運航費も安くなるに違いない。

 

主ローターの形状変更

 ヘリコプターの騒音はローターの音が最も大きい。ローター音とは、専門家によれば、主ローターから発するBVI(ブレード・ボルテックス干渉)のインパルス音と尾部ローターの騒音、もしくは主ローターと尾部ローターの後流干渉(TRI)による音だが、これらの騒音の最大値は尾部ローターの騒音によって決まることが多い。

 このことから小型ヘリコプターでも大型機以上にやかましくなることがある。たとえば小型機で2枚ブレードのローターを持ち、主ローターや尾部ローターの音が高い機体は、多数のブレードを持っていてBVIやTRIの少ない大型機よりも、人の耳にやかましく聞こえたりする。

 ICAO(国際民間航空機構)は航空機の騒音を制限し、その基準を定めているが、いま主要メーカーがめざしている騒音レベルはICAOの基準よりも10デシベルほど少ないという水準である。

 そのための手段は、ひとつがローターブレードの翼型と平面形の改良である。これを最も早く実用化したのはイギリスであった。有名なBERP(British Experimental Rotor Program)計画から生まれたローターブレードである。

 ウェストランド・ヘリコプター社と国立航空機研究所とが1976年から共同研究を開始したもので、86年8月11日にはBERPブレードを取りつけたウェストランド・リンクス・ヘリコプターが400.87km/hという世界速度記録をつくった。この記録が示すように、BERPブレードは空力的な効率が良いうえに、櫂のような形状をした先端は速度の増加に伴う衝撃波の発生が遅く、したがってヘリコプターの前進速度を増すことができるばかりでなく、騒音の発生も減少する。

 このBERPブレードは単なる実験や記録飛行に終わることなく、現在ではリンクスVやEH-101に装着されて実用になっている。このBERPの考え方は現在なお世界中で研究されており、揚力が大きくて抗力と騒音の小さいブレード、もしくはローター・システムの開発がつづいている。

 

尾部ローターの騒音軽減

 尾部ローターも上述のとおり大きな騒音要素だが、その騒音軽減のためにヒューズ・ヘリコプター社(現MDヘリコプター社)はノーター機構を開発した。音源となるファンを機体内部、テールブームの取りつけ部分に納めてしまい、外部に向かっては圧縮空気だけが噴き出す。MDヘリコプターの騒音は、この方法で他の同級機にくらべて確かに少なくなった。

 ユーロコプター社では、かねてからフェネストロンを使ってきた。これも通常の尾部ローターの代わりに、ブレードの多いファンをテールフィンの中に囲いこみ、尾部の安全を高めると同時に騒音の軽減をねらったものである。現在はブレードを非対称的に植えつけることで、いっそう騒音が少なくなっている。

 またフェネストロンの出口に小さいチューブを巻いて消音効果を上げたりもしている。この場合、飛行試験では前進速度ゼロで3デシベルの減少が見られた。ただし速度140km/h以上では減音効果が見られなかった。それでも問題になりやすいホバリングや低速アプローチのときの騒音は減るわけである。

 こうしてローターブレードの先端形状を改め、先端速度を制限することによって、たとえばユーロコプター社の最近の製品――EC135やEC120などはICAOの騒音基準に対して6〜7デシベルほど静かになった。

 だが、それでも充分とはいえない。ヘリコプターが市街地で自由に発着するためには、いっそうの騒音軽減が必要である。それには、もっと巧妙な対策が必要というので、個々のブレードのアクティブ・ピッチ・コントロールといった手段が研究されている。

 さらに最近は飛行中にローター回転数を増減させるという手段も騒音軽減策のひとつになっている。三菱重工業の開発した新しいMH2000ヘリコプターは、巡航飛行中にローター回転数を10%減として、騒音を減らしている。

 

衛星航法と全天候性

 次の課題は安全性の向上である。とりわけ悪天候でも安全に飛べるような全天候性を実現しなければならない。これには地球上どこでも使えるGPSを利用した航法装置の開発と改善が進んでいる。

 ヘリコプターは石油開発のための洋上飛行や山の中の飛行が多い。しかも、飛行機から見れば近距離だが、ときに500kmくらいの範囲を飛ばなければならない。そうした洋上または山中の飛行には地上の航法施設が利用できないことが多く、GPSはもってこいのシステムである。

 このGPS受信機に加えて、地形の変化を察知できる機上搭載レーダーや赤外線センサーのようなものも必要になる。そして、これらの情報をコクピットの中で表示するためのワイドスクリーン・ディスプレイが開発され、表示の方法はディジタル・マップを組み合わせることになろう。

 また全天候性というからには、防氷装備も必要である。氷結気象状態の中で飛行できるようにするためだが、特に寒い地方で旅客輸送をするような場合は必須の条件であろう。この種の装備は、まだ余り普及していない。たとえあったとしても重くて、かさばって、高価なものがほとんどで、しかも作動させるには出力を食いすぎるものが多い。これからは、もっと安くて軽い防氷装置の開発が求められている。

 さらに地上からヘリコプターの現在位置を確認するための自動サーベイランス(監視)装置も必要になる。また空域管制システムもヘリコプターの飛行特性に合ったものになることが望ましい。現在の管制システムは固定翼機に合わせて設定されているので、回転翼機からすれば非効率的で飛びにくい。

 これらの課題に向かって各国各メーカーでは、さまざまな技術的取り組みがおこなわれている。たとえばユーロコプター社では雨、霧、雪などの悪天候時のヘリコプターの安全性を高めるために、目下BK117を使ってさまざまな試験をしている。「全天候ヘリコプター・プロジェクト」と呼ばれるもので、ひとつはドルニエ社の開発したイメージング・レーザー・レーダーで、悪天候の中でわずか10ミリの電線を300mの遠方から探知することができる。また「ヘリレーダー」と呼ばれるのはローターヘッドにアンテナをつけて回転させ、きわめて鮮明な画像をコクピットに表示する。その成果は2003〜05年頃EC135、EC145(BK117)、EC155などで実用化するという目標である。

 

先進技術研究所の取り組み

 こうした課題については日本でも、通産省の肝煎りによって大がかりな研究開発がすすんでいる。1994年3月に発足したコミュータヘリコプタ先進技術研究所(ATIC)によるもので、2001年3月までの7年間に総額88億円の費用で研究を完成させることになっている。

 その課題は「21世紀の高速輸送体系に対応した都市ヘリポートでの離着陸が可能で、天候やパイロットの技能に左右されないコミューター・ヘリコプターの開発に向けて、低騒音、安全性、定時運航を実現する次世代ヘリコプターに関する基盤的技術の確立」をすることである。

 ヘリコプター旅客輸送の実施にあたっては安全性の向上、計器飛行システムによる定時性の確保、容易な操縦性、低騒音化、コスト削減による経済性の向上、そして旅客の快適性を実現することなどの課題がある。この中で特に重要な研究課題として、同研究所は低騒音ローター・システム、飛行安全システム、容易な操縦のためのヘリコプター用計器飛行システムといった3点にしぼって研究をすすめてきた。

 騒音問題については、主ローター・ブレードの翼型および先端形状などについて、最新の数値流体解析技術を活用しながら騒音軽減をはかると共に、アクティブ騒音制御装置のついたローター・システムを開発、環境に合わせて回転数を変えながら騒音の調整ができるようにするという技術を採用している。これで10デシベルの騒音軽減をめざしている。

 また飛行安全システムはコンピューターによって操縦を容易にするような制御システムとフライト・マネジメント・システムを統合し、簡単に操縦できる装置を開発したり、計器パネルの情報表示も分かりやすいものにして、飛行の安全を実現しつつある。

 こうした研究はあと1年足らず、2001年3月末までに、実機によるテスト飛行も含めて完成する予定で、その成果は将来の具体的な実機の開発に応用されることとなろう。

 

「良かろう、安かろう」

 今後のヘリコプターに残されたもうひとつの課題は経済性である。ヘリコプターの技術的な課題が高水準に達した現在、運航者や利用者にとって最大の問題はコストということになってくる。 

 物あるいはサービスの価値には次のような関係式が成り立つ。 

   

  V(価値)= Q(品質)/ P(価格) 

   

 すなわち物の価値は品質に比例し、価格に反比例する。したがって価値を高めて売れ行きを伸ばすためには品質を上げ、価格を下げるわけだが、どうやら最近のヘリコプターは、品質――ここでは飛行性能や輸送能力――については限界に近づいた。これ以上に品質を上げようとすると、それ以上にコストがかかる状態になってきた。したがって上の式から、今後ヘリコプターの価値を高めるには、品質の向上よりも価格を引き下げる方が効果的ということになる。最新の技術を取り入れたからといって、ヘリコプターの値段を上げて良いという理由は成り立たないのである。

 最近は軍用機でも、安いことが重要な条件となっている。性能や品質が良ければ高くても構わないという時代は過ぎ去った。「良かろう、高かろう」ではなくて、「良かろう、安かろう」という結果が求められている。

 そこで、コストを引き下げるには、機体価格と運航費の引き下げが必要になる。機体価格の引き下げのためには、まず開発費を減らさなければならない。それにはコンピューター技術を最大限に利用し、「バーチャル・ヘリコプター」とでもいうべきものをコンピューターの中で飛ばし、実際の飛行試験時間を減らして開発期間を短縮するといったこともおこなわれるようになった。最近では、新しいヘリコプターの開発は3年で完成させなければ競争に遅れるという人もある。

 次に製造費を減らすには製造工程を自動化し、部品点数を減らす。さらに材料を改めたり、部品を共通化するなどの手段がある。たとえばユーロコプター社の場合、ドナベル工場ではEC135、NH90、タイガー攻撃機の製造のために17種類もの異なった複合材が使われている。しかし、この種類が減れば、コストも下がるだろうと思われる。

 さらに機体構造の製造を合理化するため、たとえばEC135の前方胴体をEC145に利用するといったことも検討されている。実際、最近公開されたEC145の機首形状はEC135と見まがうばかりになった。

 次に運航費の削減のためには、整備の手間がかからず、耐用時間の長い部品を開発して整備費を引き下げる必要があろう。たとえばローター系統については、耐用年数に制限のない複合材ブレードや整備不要に近いベアリングレス・メインローターの導入、金属製品の表面処理の改良による信頼性の向上などによって大きく下がったことは周知の通りである。

 こうしてヘリコプターは21世紀へ向かって、さまざまな研究開発が進んでいる。そこから新たな技術革新が生まれ、よりすぐれたヘリコプターが登場するにちがいない。

(西川渉、『別冊航空情報ヘリコプターのすべて』)

 

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